8月, 2016年

地唄舞上達への道①  ~杜季女聞書抄~

2016-08-28

 

 

╶─ 地唄舞上達への道① ╶─╴

 

「ポーランド公演」関連記事に続いて、杜季女師に地唄舞についてのお話を色々お伺いしていくシリーズ「杜季女聞書抄」です。

 

地唄舞 鉄輪(マリアンポレ)

地唄舞 鉄輪(マリアンポレ)

 

今回は早く上達するために生徒はどうすればよいかという、大変虫がいいお話を伺いたいと思います。生徒さん一人一人の抱える課題は違いますので、あくまで私(珠真女)の個人的な立場からの質問であることはお許しください。

「学問に王道なし」というように、地唄舞上達への道は師のもとでひたすら地道なお稽古を重ねるしかないというのは当然のことです。しかしながら、子ども時代、あるいは若い頃から地唄舞のお稽古をしていらした方にくらべて、私のような四十の手習いの晩学の人間はもともと地唄舞の身体が出来ていない上に、足腰立たなくなる老化までの時間が若い方より短いので、少しでも早く自分の技量を上達させなければとても追いつけません。何を心がけるべきるかのヒントをいただければ幸いです。

 

※まず初心者へのアドバイスをいただけますか。

 

╶─╴五分でも十分でも毎日身体を動かしてください。お腹(丹田)を芯にして立ったり坐ったり動いたりすることが基本です。これができるようになったら、脱力することです。腕をぶらんぶらんさせて、身体を独楽(こま)のように傾けて。(師の実演つきを文章で説明するのは難しいのですが、独楽のように回転するということではありません。独楽のように軸がぶれずに腕を重力に逆らわずにやわらかく前後左右に動かすのです)

地唄舞は自分の身体を、いきまないで、カチカチでなく、ゆるやかにしぜんに動かします。まわりの空気を極力乱さない立ち居振る舞いです。舞のお稽古の中で是非この身体づくりをしていただきたいと思います。これは日本の風土にあって、日本人の精神にも繋がる日本人がつくってきたしぜんな体感で、省エネの、美しい動き方なのです。こういう動きを美しいと思う感性をもっていただきたいと思います。この立ち居振る舞いの中には礼儀作法も入り、自分修行、自分磨きでもあります。難しいことですが、お稽古をする中で少しずつ身につけていきたいものです。

 

 

※私が地唄舞のお稽古を始めて最初の難関が、舞以前の問題といえば身も蓋もないのですが「振り」をおぼえることでした。お稽古場から一歩外に出たら全部忘れてしまうのです。家に帰りつくまでもたないなんてまったく情けなくて(笑)でも、振りおぼえの早い生徒さんもたくさんいらしてこの違いは何だろうと羨ましく思いました。個人的な印象では、以前にバレエや日舞や仕舞やフラメンコなど、どんな種類のものでも身体を動かす踊りに親しんでいらした方が振りの習得が早いように感じました。

 

╶─╴物覚えの問題というより、どんな種類の舞踊でも経験者は身体を動かすことに馴れていてためらいがないのだと思います。ふつうの生活の中では身体をあのように動かしません。振りは、頭で考えずに動きながら身体にしみこませていかなければなりません。

何かの舞踊をお稽古していらした方は、身体を動かすことにためらいがないので、まったくの初心者のような苦労はないかもしれません。ただ、ある段階になると以前に習っていた舞踊の特徴がどうしても動きに出てしまいます。真っ白になれないので、以前の踊りの動きのクセのようなものが出て矯正に苦労する場合があります。大きな舞台でみせる踊りですと、どうしても動きが大きくなりすぎる傾向が出て、それを直そうとすると反対に萎縮した不自然な動きになってしまったりするのです。どんな舞踊を習っていてもすぐに真っ白な状態で新しいものに入ることのできる人もいますが、そういう人はわずかです。

まったく白紙の状態で始めた人は最初はゆっくりしか進まなくて苦労するかもしれませんが、あるところまでいくと矯正する必要のない分かえってやりやすいのです。経験者と未経験者では苦労する段階が違うということです。

 

 

※経験者にも初心者と別な苦労があるということは、上達の道はどちらにも平等に厳しいということでございますね。私の経験では、振りについては名取のお許しをいただいた頃から少しずつ覚えやすくなってきました。お稽古場を一歩出たら忘れていたものが、家に帰ってすぐなら覚えている、次に夜になっても覚えている、次の日も何とかいけるという亀の歩みでしたが、石の上にも三年という諺はやはり正しいことを実感いたしました。

しかし、譬えが適当かどうかわかりませんが「振り」を入れることはピアノの楽譜をやっと読める状態になった次元の問題ですから、ここからがほんとうの苦労ではないかと思います。あくまで私の場合の話ですが、ご注意いただいたことを頭で理解しても身体の動きにうまく反映させられません。これは筋力や運動神経の問題もあるのではないかと思うのですが如何でしょう。

 

╶─私はスクワットはしませんが、坐っている姿勢からゆっくり立ち上がる、立っている姿勢からゆっくり坐るという動作、跳躍力を使わないで立ったり坐ったりするこの動き方はたしかに筋力がつくと思います。筋力があるから出来るのではなく、日々のお稽古でしぜんに筋力がついてくるのです。足の速さのような運動神経は、舞とあまり関係ないと思います。あえて言うなら舞神経の問題でしょうか。私の場合は自分の平衡感覚は舞に役立っていると思います。子どもと一緒に行ったゲームセンターで波乗りゲームに挑戦したら98点が出てびっくりしました。(笑)

 

 

※まあ、そんな高得点がでるものなのですね。平衡感覚にすぐれていることは、つまり身体の芯の軸がぶれない、重心移動が正しく出来ている結果ではないかと思います。お稽古していてよく先生に右足に重心を、今度は左足に乗ってとご注意いただくのですが、私はたいてい反対側に体重が乗っていて、下半身がしっかりせずあれれと。

 

╶─以前に柿傳の大西先生から鰹節削りを褒めていただいたことがありますが、舞の時の丹田に力を入れる態勢がこんなところにも役立つようです。下半身の重心が安定しているかいないかは、歩いているのを見ているだけでわかります。舞の上手下手は歩きを見るとわかるものです。さらにそこからもう一段階上に進むのに大切なのはやはり精神力です。精神が真っ直ぐ向いているか、決意を真っ直ぐにもっているかが、すーっと立てるか歩けるかという動きに反映されるものです。私も日々精進と思っています。

 

※自分の根性の不足を大いに反省しなければ……。(笑)

続く

 

地唄舞ワークショップ 「鶴の声」習得コース

2016-08-11

10月14日、28日、11月11日 金曜日 地唄舞ワークショップ「鶴の声」習得コース

前回開催した黒髪ワークショップに引き続き、地唄舞「鶴の声」を3回で 舞えるように

お教えするワークショップを開催致します。

初心者の方、日本舞踊を習っている方、それぞれに講師が対応いたします。

講師 花崎杜季女 他、花崎会メンバー

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場 所: コレド室町3 3階 和室「橋楽亭」

〒103-0022 中央区日本橋室町1-5-5

日 程: 10月14日、28日、11月11日 金曜日 計3回

時 間: 18時30分 受付開始 19時~ 体ほぐしと舞の基本動作、2回以後は前回の復習
19時~20時30分「鶴の声」

受講料: 5,000円(3回分)

定 員: 20名 持ち物:着物もしくは浴衣一式(お持ちでない方はご相談ください).足袋

主催・申込:  地唄舞普及協会

電 話:  080-3933-8731

E-mail :  jiutamai.fukyu@gmail.com

*キャンセルは前日まで 受講料は1回目の受付時にお支払いください。

 

Location: 3F, COREDO Muromachi 3

Date: October 14, 28, November 11, 2016, Friday (three workshops)

Time schedule: Reception open at 18:30, workshops start at 19:00, “Tsuru no koe” dance lesson from 19:00 to 20:30

Fee: ¥5,000 total
Limited enrollment: 20 persons

Attire: A kimono or yukata and tabi socks (if you don’t have kimono or yukata, please ask us)

Reservation and inquiries: Jiutamai Promotion Foundation

Tel: 080-3933-8731

E-mail: jiutamai.fukyu@gmail.com

Cancellations must be made by the day before each workshop. Please pay for the course on the day of the first workshop.

ちょっと、地唄舞情報

2016-08-07

 

「雪」の人形

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人形作家の藤本郁子先生が、国立小劇場の花崎会公演に出演されたHさんの「雪」の舞姿をモデルにした「雪」という名の素敵なお人形を作成なさいました。会期は終わっていますが日本橋の丸善ギャラリーに展示されていた時の写真をHさんにお願いして頂戴しましたのでご覧ください。(写真掲載については藤本先生に許可をいただいております)お美しいHさんによく似せてつくられたお人形で、肌理細かな質感と繊細さで手元に飾りたくなる愛らしさです。

 

国立小劇場で行う花崎会では、毎回杜季女師が京都の小林衣裳さんまで出かけて出演者全員の衣裳を選んでくださいます。前もって小林衣裳さんに演目をおつたえしておくと候補の衣裳を何種類も用意して待っていてくださるそうです。小林衣裳さんは杜季女師がまだ関崎ひで女師の弟子でいらしたころからの、三十年近いおつきあいで杜季女師のお好みもよくご存知と伺いました。

杜季女師が衣裳選びで心掛けていらっしゃるのは、公演全体の流れを考慮して前後のバランスをとることや舞う人の雰囲気にあわせたものを選ぶことです。なぜ京都の小林衣裳さんで衣裳をお願いするのかということをお訊ねしたところ、東京の舞台用貸衣装は歌舞伎関係、大舞台向きの柄の大きなものが多いのに比べ、京都の衣裳は小紋の柄なども小さく、トーンを落とした上品な雰囲気のものが多いこと、そして京都の着物は保守的なものばかりでなく東京にはないような思いがけず冒険した面白いものがあることが理由だそうです。

杜季女師は花崎流が本当に美しいと思うものをお客さまに観ていただくことを何より大切にされていて、衣裳も舞台という総合芸術の大切な要素と考えています。

私は、杜季女師が毎回出演者にどのような衣裳を選ばれるのか拝見するのを楽しみにしています。それぞれの方に良く似合うものをお上手に選ばれているのでいつも感心してしまいます。より完成された舞台にするために、杜季女師が労を惜しむことはありません。

Hさんの「雪」の衣裳はご覧いただいたように白のきれいなものです。「雪」は大抵は白、グレー、舞妓さんから芸妓さんに衿替えの時に着る黒の衣裳から選ぶ場合が多いそうです。当初は雪という言葉のイメージとHさんの雰囲気から、真っ白な着物に真っ白な帯を予定していらしたそうですが、実際には、白の着物に白い帯をのせたものより、少し色の入ったものをのせたほうが印象が締まるのでこちらを選ばれたとのことでした。八掛に雪が降っている模様がみえて全体的にはんなりとしています。白い着物は自分ではなかなか着る機会のないものですから私も憧れます。

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地唄舞の衣裳は日本舞踊のものと同じ作りではありません。着物の裾にフキを薄くわからないようにしかいれません。日舞には足をかけて衣裳をまわすような動きがありフキがしっかり入ります。地唄舞ではそのような足の動かしかたはなく、衣裳の裾まで身体に吸い付いて動くためにも、フキは最低限にして裾まで流れるような身体の線の美しさを出そうと考えられています。

この藤本先生のお人形と実際の舞の大きな違いは傘の持ち方にあります。このお人形の傘が曲がった角度に持たれているのは藤本郁子先生の人形作家としての美意識、または動いている途中の動作によるものでしょう。

杜季女師のご指導では地唄舞「雪」においては傘を持つ所作で持ち方を曲げてはいけないのです。曲げてもつと、舞姿がくずれた感じになるので、傘は常に真っすぐに持たなければなりません。曲げる場合ははっきりした角度で曲げます。地唄舞では、ふにゃっとしたイメージは殺す必要があり、凛とした様式美が理想とされます。

花崎流における「雪」で使う傘は紫のぼかしで中が五色の糸の絹張りのものになります。黒のぼかしで中が真っ白のものを使用される方もありますが、さびしくなりすぎるので使いません。また、師の教えによると、傘がぼかしになっていることで身体が傘に隠れている場合も身体の線がぼんやり見える、傘をすかしてうつる身体の線の美しさが「雪」の一つの味わいにもなっています。

衣裳も傘という小道具も、「雪」という舞をより一層の美しさに近づける要素です。この他に鬘やお化粧や着付けについてもプロの方々の細心の気配りとお手伝いを経て、いよいよ舞台に登場します。日々のお稽古はこの舞台に最善を尽くすためにあるといっても過言ではありません。一つの舞台を終えるとなぜか舞も少し上達して、次のステージに向かってまた勉強が続きます。実に奥深い世界なのです。

 

蛇足ですが最後に一言。こんなに手間暇かかった地唄舞の舞台はさぞお金がかかって庶民に縁遠いと思われるかもしれませんが、そのようなことはないと申し上げます。地唄舞の舞台に立つことは、日舞の舞台に立つようなことはなく、私のようなサラリーマン家庭でも可能な「価値ある贅沢」であることを付け加えさせていただきます。地唄舞をお稽古する方が増えて一人でも多くの方にこの長い間蓄積されてきた伝統芸能の精華でもある舞台を実体験していただきたいと願っています。Hさんのように素敵なお人形ができてしまうかもしれません。最後にHさんの美しい舞台姿をご覧ください。

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文責 珠真女