地唄舞普及協会

地唄舞の歌詞と解説 「は」の行
The HA-row

羽織褄

歌詞
袖ひぢて 結びし中も薄氷 とくと合点はしながらも まだ春寒き雲行きは 
誰に当たって武庫山颪 痛くな吹きそ身は捨小舟 
芦と葭とはな よしある仲よ おおそれさえ 節のまにまに口舌が絶えぬ しょんがえ
雛と星とはな まれなる契り おおそれさえきっと守った誓紙の表 
仇し心はないわいな
作詞・作曲
作詞:流石庵羽積・湯河亭主人亀男
作曲:菊崎匂当・富山清琴胡弓手付 
解説
かつては許しあった仲であるのに今はもう自分の元へ訪れてくれない。けれど自分は心変わりせず恋しい男を一途に思い続けるという廓の女性の心情を歌った曲。
表題の「羽織褄」が何を意味しているかは見解が分かれる。そもそも天明2年(江戸中期)に刊行した『歌系図』(流石庵羽積 著)では「羽織“妻”」と書かれていた。
当時の女性は羽織の使用を幕府から禁止されていたが、「芸は売っても色は売らない」と羽織をはおった男勝りな「深川芸者」が人気を博しており、「羽織芸者」「辰巳の左褄」とも呼ばれていた。このことから「羽織褄」は深川芸者のような“意地のある女心”や“一途に操を立てる恋心”を表しているとする説もある。
歌い出しは『古今和歌集』紀貫之の和歌「袖ひぢて結びし水のこぼれるを 春立つ今日の風や解くらむ」を引用している。袖を濡らして手ですくったあの水が凍っていたのを、立春の今日の風が溶かすのだろうかという意味。風で解けてしまう薄い氷のような二人の仲も、春寒い季節だから解けないはずだと続く。
「誰に当たって武庫山おろし」は、長唄『船弁慶』の「しかも如月半ばにして武庫山おろしの風激しく逆波立ちて御船の」を引いている。
「痛くな吹きそ」は『続後撰集』にある待賢門院堀河の「旅にして秋去り衣寒けきに いたくな吹きそ武庫の浦風」を引く。
「捨小船」は頼りのない哀れな身の上の意味であり、遊女をさすことが多い。
「芦と葦」は悪しと善しをかけている。
「雛と星」は常に夫婦一緒の雛人形と年に一度の七夕を対比させ、「仇し心はない」、つまり浮気心はないと結んでいる。
参考文献
・久保田敏子 編(2011年).『地唄筝曲研究<楽曲編 下>』.京都市立芸術大学 日本伝統音楽研究センター発行
・相賀徹夫 編著(1983年).『日本舞踊名曲事典』.小学館発行
・岡田万里子 編著(2005年).『日本舞踊曲集成②(京舞・上方舞編)』.演劇出版社発行
・中内蝶二、田村西男 共編(1928年).『日本音曲全集 第6巻』.日本音曲全集刊行会
・宮崎まゆみ 著(2024年).『上方舞の歌詞 地歌・上方唄の現代語訳』.手塚書房取扱い
・ウィキペディア(2024年更新).『辰巳芸者』.ウィキメディア財団.
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/辰巳芸者(2025/2/25閲覧)

花の旅

歌詞
春風に なびく姿や浅緑 好いた仕打に誘われて 思ひ立つ名の出口の柳 
都を過ぎ此所かしこ 八町三所かき散らす ひと風変はる大津絵の 七つ道具の武蔵坊 かたい石場の間より ぬるりぬるりと瀬田鰻 長い旅路を踏みわけて 草津の里の姥が餅
つくづく杖の下くぐる 目川の水の忍ぶ恋 なんぼ石部のお前でも 心違はすその手管 座敷騒ぎをかこつけて 踊子汁は水口に うまい首尾ぢゃと登りあふ 坂はてるてる鈴鹿と合ひの 
あひの土山 雨にしっぽりと 大竹小竹 坂の下 心の丈は尽されぬ 筆捨山のその中を
関にせかかる椋本の 娘ごころの一筋に 津の町通る阿弥陀笠 人目かまはぬ旅の空 雲出の河を高からげ 又の泊りを松坂と
黄楊の櫛田も通り過ぎ かみの油の口上手 煙草入売る小林屋 伯父も伯母御も買うて行く 数は積るに限りなき 神の恵みの山田へ
作詞・作曲
作詞:油屋茂作・秤屋九兵衛
作曲:峰崎勾当
解説
うららかな春の日に男女が京都から大津、鈴鹿を経て伊勢神宮へ参詣するまでの道行を、艶やかに謳いあげた曲。道中の名所や名物が掛詞を用いて綴られている。
・「浅緑」:柳の新芽
・「好いた仕打に誘われて」:好いた男性の巧みな誘い
・「八町三所」:八町を三度に飛ぶ意で、極めて足が速いの意(八丁三所)
・「かき散らす」:かごを「舁く」と、大津絵を「描く」にかけている
・「大津絵」:元禄頃、大津の三井寺辺りから売り出された仏画風の風刺的粗画。七つ道具の弁慶の絵は有名。 
・「瀬田の鰻」:琵琶湖から流れ出るただ一つの瀬田(勢田)川で、江戸時代からの名物。
・「草津の里」:草津は東海道と中山道の分岐点。行き交う旅人の格好の休み処だったので、古くから宿はとして繁盛した。
・「姥が餅」:近江の草津を代表する名物のひとつ。
・「つくづく」:『絃曲大榛抄』には「つくつく」と歌うべきだという頭注がある。「餅をつく」と「杖をつく」をかける。
・「石部」:地名の「石部」と、融通の利かないことを指す四字熟語「石部金吉」をかける。
・「踊り子汁」:どじょう汁。座敷騒ぎの踊り子をかける。
・「水口」:滋賀県の宿場町。「みなの口にうまい」と「うまい首尾」にかける。
・「坂はてるてる」:江戸の小室節に基づく馬子唄の「坂は照る照る鈴鹿は曇る、間の土山雨が降る」を引く。近松門左衛門『丹波与作待夜の小室節』(『恋女房染分手綱』の原作)や、繋太夫節『三吉』にも使われる。
・「堰に堰かるる」:急きに急かるる(娘心)
・「松阪」:「待つ」とかける
・「おばた」:古俣宿。おじとおば。歌本は「おばゝ」とも読め、「おばこ」と歌う派もある。
参考文献
・平野健次 監修・解説(1996年).『筝曲地歌大系』.ビクター伝統文化振興財団
・宮崎まゆみ 著(2024年).『上方舞の歌詞 地歌・上方唄の現代語訳』.手塚書房取扱
・斉藤春子 著(2017年).『上方の風雅:地歌(三絃)筝曲(箏)』.燃焼社発行
・中内蝶二、田村西男 共編(昭和3年).『日本音曲全集 第6巻』.日本音曲全集刊行会

春日影

歌詞
常盤なる 松の梢に雛鶴が
汀の亀と諸共に 千代を楽しむ春日影
作詞・作曲
作曲:菊島勾当
作詞:流石庵羽積·湯河亭主人亀男
解説
春の日の光が穏やかに輝く、うららかでのどかな日に、松の梢に鶴のヒナが、松の下の池の汀に亀がいる風景をうたっています。長寿の象徴である松や鶴、亀、が入っためでたい祝儀曲です。
春日影とは、影ではなく春の日の光のこと。曲の最後の「春日影」は「春日影世は長閑にてそれとなくさえつりかはす鳥のこゑこゑ」という『風雅和歌集』巻第二・春歌中におさめられている儀子内親王の和歌のことのようです。
参考文献
・岡田万里子 編著(2005年).『日本舞踊曲集成②(京舞・上方舞編)』.演劇出版社発行
・平野健次・上参郷裕康・蒲生郷昭 監修(1994年).『邦楽曲名事典』.平凡社発行

初出見よとて

歌詞
初出見よとて 出をかけて
先ず頭取の伊達姿 よい道具持ち 意気なぽんぷ組
ええずんと立ったる梯子乗り 
腹亀じゃ 吹き流し逆さ大の字 ぶらぶら谷覗き 
作詞・作曲
作詞:田村成義 
作曲:三世坂東三津五郎(桜見よとて)
解説
お正月に適した調子の良い明るい小唄で、「桜見よとて」という上方小唄の替え歌です。正月の火消しの出初め式の様子を唄っています。
曲の初めの「出をかけて」は、鐘を鳴らして火消しの組のものを集めることと、芸者たちが出初め式を観ようと揃って出かける様子とをかけているといわれています。
火消しの頭の派手な姿や、火消し衆の梯子乗りの離れ業(吹き流し、逆さ大の字、ぶらぶら谷覗き)などが歌詞に描かれています。
参考文献
・高橋掬太郎 著(1952年).『端唄・うた澤・小唄全集:注釋付き』.新興樂譜出版社発行
・木村菊太郎 著(昭和39年).『江戸小唄』.演劇出版社発行
・清元延ゆき朗(2020年更新).『ブログ 1月の小唄 「初出みよとて」』.東京小唄・清元・三味線教室.https://kiyuumi.com/archives/2020/01/%e4%bb%8a%e6%9c%88%e3%81%ae%e5%b0%8f%e5%94%84%e3%80%80%e3%80%8c%e5%88%9d%e5%87%ba%e3%81%bf%e3%82%88%e3%81%a8%e3%81%a6%e3%80%8d.php(2025/2/20閲覧)

萩桔梗

歌詞
萩桔梗 中に玉章忍ばせて 
月を野末に 草の露 
君を松虫 夜毎にすだく 更けゆく鐘に雁の声
恋はこうしたものかいな
作詞・作曲
作詞:不詳
作曲:不詳
解説
愛しい人を想い待つ、切ない女ごころを秋の風物にかけた端唄です。
歌詞の「玉章」とは、手紙(恋文)のこと。「君を松虫」は、愛しい人を待つ自分自身のことを松虫とかけています。
夜も更け、月は傾き、時を知らせる鐘の音と雁の声だけが聞こえてくるわびしい様子が唄われています。
参考文献
・蟹江尾八 著(2004年).『端唄集 第2巻 ―三味線譜と解説―』.蟹江音楽事務所販売
・森治市朗 編(1975年).『日本舞踊曲収覧』.邦楽社発行
・倉田喜弘 編(2014年).『江戸端唄集』.岩波書店発行
・公益財団法人 日本伝統文化振興財団(2003年).『ビクター新舞踊基準曲集 《基礎編》第1巻 上
 萩桔梗/さくらさくら』.作品検索.
 https://s.jtcf.jp/item.php?id=VZSG-10231(2025/2/20閲覧)