地唄舞の歌詞と解説 「な」の行
The NA-row
夏は蛍
歌詞
夏は蛍の灯火に 短き夜半をくよくよと 泣き明かしたる ほととぎす
仰げば顔にばらばらと あれ村雨が袖うちふりて
よいよい よいよい よいやさ
作詞・作曲
不詳(幕末から明治初期に作られた曲と考えられる)
解説
夏の夜、蛍の灯火のもと恋しい人を思い泣いていると、いつの間にか夜明けを知らせるホトトギスが鳴いている。見上げれば顔にぱらぱらと涙のように雨が降り注ぐ―――。
恋しい男性が去った悲しみを、蛍の命の儚さに重ねた曲。短い歌詞の中に「涙」を連想する言葉が散りばめられた叙情的な内容となっている。
歌詞の後半にある「村雨」とは 「群れた雨」の意味であり、強く降ってすぐ止む雨のことをさす。「袖うちふりて」は、雨をさっと払いのける様だが、別れを惜しむ様子を表現しているとも考えられる。古くから袖には霊魂が宿ると信じられており、別れを惜しんだり、愛情を示すために袖を振っていた。恋しい人の魂を呼び寄せる手段でもあった。
蛍は万葉集の時代から心情表現で用いられているが、庶民に蛍狩が広まったのは江戸時代に入ってからのこと。錦絵では団扇や虫籠を持って蛍の名所へ赴く人々の様子が描かれている。
花崎流でも曲のはじめは団扇を持って舞う。また虫籠の蛍の光で書物を読む振りが盛り込まれている。
参考文献
・藤田洋 著(2010年).『日本舞踊ハンドブック改訂版』.三省堂印刷発行
・長谷川正晴 編(1995年).『日本舞踊辞典』.日本舞踊社発行
・斉藤春子 著(2017年).『上方の風雅:地歌(三絃)筝曲(箏)』.燃焼社発行
・公益財団法人放送番組センター(1994年). 『芸能花舞台 上方舞三題「都十二月」「夏は蛍」「芦刈」』.
放送ライブラリー.https://www.bpcj.or.jp/program/detail/013063/ (2025/2/10閲覧)
・後藤好正 著(2015年).『「螢狩」という語が使われはじめた時期とその後の展開について』.
豊田ホタルの里ミュージアム研究報告書 7: 11-19.
・曹咏梅 著(2009年).『万葉神事語辞典』.國學院大學デジタルミュージアム.
https://jmapps.ne.jp/kokugakuin/det.html?data_id=32079 (2025/2/13閲覧)
.png)
菜の葉
歌詞
可愛いと云うことは 誰がはじめけん
ほかの座敷は上の空
許様まゐると示す心のあどなさよ
上上様の痴話文も 別に違わぬ様まゐる
思ひまわせば勿体なうて
言葉さげたら思うこと
菜の葉にとまれ 蝶の朝
作詞・作曲
作詞者:不詳
作曲者:歌木検校 箏の手付けは不明
解説
自分を菜の葉に、恋しい人を蝶にたとえ、早く会いに来てほしいと願う遊女の心情をうたった曲。
「愛おしい」という言葉は誰が言い始めたのでしょう。菜の葉が花をつけて蝶を待つように、あなた様が訪れるのを待っています―――、というような恋文仕立になっており、花崎流では上上様からの手紙を読んだり、返事をしたためる振りが盛り込まれている。
「菜の花」ではなく「菜の葉」としているのは、まだ花開かぬ若い遊女を表現しているとも考えられる。「ほかの座敷は上の空」になったり、大人には使わない「あどなさ」 という言葉が用いられている点からも、どこか未熟で幼い雰囲気が感じられる。
参考文献
・中内蝶二、田村西男 共編(1928年).『日本音曲全集 第6巻』.日本音曲全集刊行会
・長谷川正晴 編(1995年).『日本舞踊辞典』.日本舞踊社発行
・平野健次、上参郷祐康、蒲生郷昭 監修(1994年).『邦楽曲名辞典』.平凡社発行
・久保田敏子 編(2011年).『地唄筝曲研究<楽曲編 下>』.京都市立芸術大学 日本伝統音楽研究センター発行
・平野健次 監修・解説(1996年).『筝曲地歌大系』.ビクター伝統文化振興財団
・水木結 著(2003年).『地歌「菜の葉」と岡倉天心 : 横山大観作≪菜の葉≫との関わりから』.
五浦論叢 : 茨城大学五浦美術文化研究所紀要. 10,p.135-143.
.png)
名護屋帯
名護屋帯
歌詞
逢うて立つ名が立つ名のうちか 逢わで焦がれて立つ名こそ まこと立つ名のうちなれや 思う仲にも隔ての襖 あるに甲斐なき捨て子舟 思や世界の男の心 妾は白波現なき 夜の寝覚めのその睦言を 思い出すほどいとしさの ぞっと身も世もあらりょうものか 締めて名護屋の 二重の帯が三重廻る 深山鶯鳴く音に細る 我は君ゆえ焦がれて細る ああ憂き世 昔偲ぶの恋衣
作詞・作曲
作詞 二世嵐三右衛門
作曲 山本喜市 改調 形検校 箏手付 笠原古都
解説
名護屋帯は肥前国「佐賀県東松浦郡」北端の海辺の村の名産で、糸を丸打ちにし、両端に房をつけた夏帯のこと。組み紐で後または横で蝶結びに結び垂らした室町末期から江戸時代初期に流行し、この帯を詠みこんで、遊女が男を恋う心情を歌っている。
参考文献
「地歌箏曲研究」久保田敏子編
.png)
流しの枝
歌詞
行き暮れて 木の下陰を宿とせば 空に知られぬ 雪ぞ散り 花の枕に 吹雪の褥 憎や嵐の当てことを 聞いて流しの 花の枝 ほんに男の気ばかり汲んで 一夜丸寝の添臥も 言わぬは言うに いやまさる 花や今宵の主ならまし
作詞・作曲
作詞 西沢一鳳
作曲 佐々木一蔵
解説
「平家物語」巻第9「忠度最期」にある平忠度が討ち取られた後、扉に結ばれていた文に書いていたという、「行き暮れて 木の下陰を宿とせば 花や今宵の主ならまし」を詞章の冒頭と最後に分けて引用している。
参考文献
「地歌箏曲研究」久保田敏子編
.png)
